★三国志妄想伝★
★劉備&五右ェ門5(5本)★
  花よりも
小さな庭園を見下ろす回廊に佇んでいると、
鳥のさえずりがうるさいくらいだった

自生している木々があるだけで造りは簡素だが、この庭が気に入り、側を通る度に足を止めた
今日もここでしばらく、木々を眺めるつもりだった

「五右ェ門殿」
呼ばれて振り返ると、部屋から出て来た劉備が穏やかな笑みで傍までやってきた
「何をしておるのだ?」
「庭を眺めておりました」
「そうか、私もこの庭は好きだ。余計な飾りがなく、心が落ち着く」
劉備も庭に視線を下ろす
五右ェ門は躊躇いながらも問い掛けた

「花は咲きましたか?」
「花?」

何の花かと問う前に、五右ェ門に問われる

「何のつもりだ、ルパン」
「あら?ひょっとして今の合言葉?」

途端、声色も口調も変わり、表情や仕草までもが馴染みのあるものになる
思わずため息をつく

「ルパンは変装が得意だと言ったら、ならば合言葉を決めておこうと申されてな」
劉備もなかなかやるなと、ルパンは変装用マスクを剥ぎ取り、無作法に投げ捨てた

戦場でも敵味方の区別をつけるために合言葉はよく用いられる
劉備が取った作戦は上手くいったようだ


「ほんで、正解は?」
「言っては意味ないだろう」
「同じ手は使わねぇよ」
次は変装以外でくるというのか

「言うつもりはない」
「あっそ、二人だけの秘密って訳ね」
そんじゃ邪魔者は消えますか、とルパンは音もなく姿をくらました



「五右ェ門殿」
呼ばれて振り返ると、回廊の向こうから劉備が穏やかな笑みで傍までやってきた
「ルパンは来たか?」
さらに言葉を続ける
「それとも、おぬしがそうか?」
その手は腰に携えた剣に置かれ、妙に悪戯っぽい顔に変わっていた

この人は『本人』が来たことなど露も知らぬのだろう
いや、もしかすると変装が得意だと言った言葉すら、冗談に思っているのかも知れない

自分はこんなにもルパンのことを知っているのに、目の前にいる人はそれを何も知らないのだと思うと、五右ェ門は不思議で仕方がなかった

真っ直ぐな瞳を向け、子供同士の戯れのように、決められた次の言葉を待っている


五右ェ門が問う
「花は、咲きましたか?」



「おう、『花より桃の実』じゃ!」








発掘したネタ
何を書きたかったのかよく分からん
多分、のほほんとした劉備さんが書きたかったのかも