★三国志妄想伝★
★曹操&次元1★
  絶対服従命令 (曹次と見せ掛けて曹惇?)
白い手がふわりと伸びて来て、次元の頬に触れる
酒のせいか、熱を帯びた肌を確かめるように指を滑らせ、顎髭を撫でた
細い顎を縁取るように生えている髭の、ザラリとした手触りが何かを思い出させる


似ている、な…
思考の片隅に、夏侯惇の顔が浮かび、苦笑した




流れ矢が当たったのだという
命は失わなかったが、矢が突き刺さった左眼を失ったと報告を受けた
射られた瞬間を目撃した兵卒から説明を聞いている内に、当の本人が顔の半分に包帯を巻き付けて現れたのを見て、苦笑した
「今日の戦は引き分けた。明日は一軍を率いて、こちらから仕掛ける」
何事もなかったように戦況を報告し始めた夏侯惇の前に、ずかずかと歩を進め、手を伸ばす
左眼を隠している包帯を、掌で優しく包み込むように触れると、夏侯惇は心中を隠すように眼を伏せた
そのまま指を滑らせ、顎髭を軽く撫でてから離れた


戦場を離れて都で療養するように命じたが、夏侯惇はそれに応じなかった
残った眼でこちらを見据え、俺はまだ戦える、と訴えるように言葉を吐いた
その声がかすかに震えている
誰よりも従順な男が、その時初めて逆らった
曹操は、また、苦笑した





「眼を、閉じよ」

静かな威厳ある声で曹操が命じると、次元は身を硬くした
明らかな戸惑いを見せたが、曹操が再び命じると、観念したのか、まるですべてを拒絶するかのように眼を閉じた
そこに隻眼の男の面影が重なる


曹操が顔を近付ける
その気配を察した次元は息を詰めたが、
温かで柔らかい感触を覚えたのは唇ではなく瞼であった



あの時、あの男に与えてやりたかったのは

命令ではない


そんな事を思いながら
包帯の巻かれていない瞼に、
口付けを落とした